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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)677号 判決 1976年11月22日

控訴人 磯部秀雄

右訴訟代理人弁護士 安田進

被控訴人 矢野儀

右訴訟代理人弁護士 小田久蔵

同 椎原国隆

同 田嶋春一

同 西村雅男

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。東京地方裁判所が同庁昭和四八年(ヨ)第八一二号抵当権実行停止仮処分申請事件について同年二月二〇日にした仮処分決定を認可する。訴遣費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

≪以下事実省略≫

理由

本件建物は控訴人の所有に属するものであること、本件建物につき東京法務局調布出張所昭和四五年八月四日受付第二二、二七九号をもって原因、昭和四五年七月一〇日証書貸付契約、手形貸付契約、手形割引契約の同日設定契約、元本極度額五〇〇万円、損害金日歩八銭二厘、債務者株式会社ビーバー、根抵当権者被控訴人とする根抵当権設定登記がされていること、被控訴人は昭和四六年一二月四日東京地方裁判所八王子支部に対し本件建物につき右根抵当債権に基づく競売申立(同庁昭和四六年(ケ)第二五五号)をし、同裁判所支部は右申立を容れて同月七日競売開始決定をしたこと、控訴人は右根抵当債権が不存在であると主張し、被控訴人を相手方として東京地方裁判所に対し、右根抵当債務不存在確認等請求訴訟を提起(同裁判所昭和四八年(ワ)第四、一八〇号)するとともに、右訴を本案訴訟として前記不動産競売手続を停止する旨の仮処分申請(同庁同年(ヨ)第八一二号)をし、同裁判所は同年二月二〇日右申請を認容する仮処分決定をしたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

そこで、以下本件競売の基本たる根抵当債権の存否について検討する。

被控訴人が昭和四三年一〇月七日丸善自動車株式会社に対し金三〇〇万円を利息月三分、弁済期三か月後の約定で貸与し、その担保として同会社所有の建物に抵当権(根抵当権)の設定を受けていたことは当事者間に争いがない。

控訴人は、右債務は昭和四四年一一月六日頃までに全額弁済された旨主張するけれども、≪証拠省略≫中、右主張に符合する部分は、≪証拠省略≫と対比すると容易に信用し難く、≪証拠省略≫もそれだけでは右主張を認めるに足らず、他に右主張を認めるべき証拠はない。したがって、丸善自動車株式会社の支払った利息が利息制限法所定の制限利率を超える一ヶ月三分の割合によるものであったことを考慮に入れても、丸善自動車株式会社の被控訴人に対する前記債務が同会社の弁済により全額消滅したものとは認められない。かえって、≪証拠省略≫によると、丸善自動車株式会社は被控訴人に対し前記借受金の利息、遅延損害金を支払いはしたけれども、元金の支払いがないまゝ経過し、右借受金について振出された約束手形二通も順次書換えられ、最後の書換手形は後記のように昭和四五年七月一〇日頃右借受金が株式会社ビーバーにより全額弁済された際、被控訴人から同会社代表者たる控訴人に返却されたことが認められる。

そして、≪証拠省略≫を綜合すると次の事実が認められる。

控訴人は、丸善自動車株式会社及び株式会社ビーバーの代表取締役であったところ、丸善自動車株式会社が前記のとおり被控訴人のため設定していた抵当権を消滅させる必要が生じたので、昭和四五年七月一〇日頃株式会社ビーバーを代表して、丸善自動車株式会社の被控訴人に対する前記金三〇〇万円の借受金債務の弁済にかえ後記金三〇〇万円の小切手を交付することにより右債務を消滅させる旨及び前記丸善自動車株式会社所有の建物に対する根抵当権設定仮登記等の抹消に必要な書類一切の交付を受ける旨の約定の下に、被控訴人に対し株式会社ビーバー振出し、額面金三〇〇万円の小切手一通を交付し、被控訴人から前記仮登記等の抹消に必要な書類一切並びに前記金三〇〇万円の借受金債務に関する書替手形として被控訴人が所持していた丸善自動車株式会社振出し、額面金一〇〇万円及び金二〇〇万円の約束手形各一通の交付を受けた。

そして、その頃控訴人は、前同様株式会社ビーバーを代表して、被控訴人との間の証書貸付、手形貸付契約等に基づく借受金として、被控訴人から前記金三〇〇万円の小切手の返還を受けることにより金三〇〇万円を借受ける旨及び右証書貸付、手形貸付契約等に基づく債務を担保するため本件建物につき被控訴人のため元本極度額金五〇〇万円の根抵当権を設定する旨の約定の下に、被控訴人から右金三〇〇万円の小切手一通の交付を受けるとともに、被控訴人に対し右債務支払いのため株式会社ビーバー振出し、額面金三〇〇万円の約束手形一通を交付し、また同時に本件建物についての右根抵当権設定登記等に必要な書類をも交付した。

以上の事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫ところで、右金三〇〇万円の小切手は株式会社ビーバーが振出したものであるが、同会社はこれをいったん被控訴人に交付したうえ、同人から再交付を受けたものであって、前認定の事情に照すと、同会社は右小切手の交付を受けることにより、その額面金額と同等の現金の交付を受けた場合と同視すべき経済的利益を与えられたものというべく、このことは、かりに同会社が右小切手の裏付けとなる銀行預金を有しなかったとしても変りはない。したがって、被控訴人と同会社の間には金三〇〇万円の消費貸借が有効に成立したものと認めるのが相当である。

以上のとおりであるから、他に格別の主張、立証がない以上、本件競売の基本たる根抵当債権は有効に成立、存続しているものというべきであり、その不存在を前提とする本件仮処分申請は理由がないから、右仮処分申請を認容した仮処分決定を取消し右仮処分申請を却下すべきである。右と同旨の原判決は相当であり本件控訴は理由がない。

よって、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 外山四郎 裁判官 篠原幾馬 小田原満知子)

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